生前贈与加算が適用されないケース

【はじめに】

前回、「相続税・贈与税の一体化の問題点」について書きました。
ご自分の財産を相続人等の方々に移転しつつ、相続税対策をなさっている方は多いと思います。
今後の改正次第では、その相続税対策が全て無効になってしまうのではないかとご心配されている方も多いと思います。
ただ、私個人の感想としては、生前の全ての贈与を相続財産に加算するような大それた改正はできないと思っています。
現状、生前贈与加算の適用を受けるのは、相続開始前3年以内の贈与財産に限定されています。
この3年という期間をある程度延ばすという改正にとどまるのではないでしょうか。
生前の贈与を一切合切相続財産に加算するとなると、影響が大きすぎます。

例えば、相続税対策として今までコツコツと何十年にも渡って少しずつ財産を子供達に移転してきた人がいるとします。
それが全て相続財産に加算されてしまうとなったら、今までやってきたことが全て無駄になります。
人によっては人生を否定された気にすらなるんじゃないんでしょうか。
そんな話聞いてないよ。そうなることを知ってたら、子供達にあげないで全部自分で使ってたよ。そういう話になると思います。
歴年贈与の節税をオススメした税理士は恨まれてしまうと思います。

3年以内の生前贈与加算を5年位に伸ばす程度の改正で済んでほしいと切に願います。

さて、贈与税相続税の今後の改正がどうなるのか占うためには現状を良く知る必要があります。
現状の生前贈与加算について復習してみました。
現状、相続開始前3年以内の贈与であっても、生前贈与加算の適用を受けないケースは色々とあります。
それらのケースを大きくまとめると以下の2つになります。

  • ケース1 受贈者が相続等により財産を取得してないケース
  • ケース2 贈与税の非課税財産に該当するケース

今回はケース1について、説明したいと思います。

【受贈者が相続等により財産を取得してないケース 】

生前贈与加算は相続税法第19条に規定されています。

相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前三年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(中略)の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし(以下略)

相続税法 第十九条

条文上、「相続又は遺贈により財産を取得した者 」というのが主語になっています。
相続又は遺贈により財産を取得した人が生前贈与加算の適用を受けるということです。
逆に言うと、相続又は遺贈により財産を取得していない人は、生前贈与加算の適用を受けないということになります。
相続又は遺贈により財産を取得していない人というのは、通常は、生前贈与に関係する人としては、孫がこれに該当すると思います。場合によって愛人が該当することになるかもしれません。

ここで言う、「遺贈」というのは「遺言によって、財産を、相続人以外の者におくること。」です。
配偶者や子供は相続人になりますが、孫は被相続人の子供が生きている限り相続人にはなりません。
相続人ではない孫に遺言で財産をおくると、その孫は「遺言により財産を取得した者」となりますので、生前贈与加算の適用を受けてしまいます。
また、子供が先に死ぬと孫は代襲相続人になります。
その場合も同じように、孫は相続により財産を取得すると生前贈与加算の適用を受けてしまいます。

相続又は遺贈により財産を取得していない孫に対しては、いくら暦年贈与をしたとしても、贈与税が課税されることはあっても、相続税はかからないということになります。
そのため、仮に今後の改正の内容が、生前贈与加算の3年という年数を延ばすだけの改正で済めば、孫に対して行っている暦年贈与の相続税対策は今後も使えます。
ただ、改正によって生前贈与加算の対象を変えてくる可能性はあると思います。
その部分についてはなんともわかりません。

子に対する生前贈与の節税が封じられれば、今まで以上に孫に対する生前贈与の節税が使われることになると思います。それを見越して、相続又は遺贈により財産を取得していない孫も対象に入れてくる可能性は無きにしもあらずという気がします。

ちなみに、相続時精算課税の贈与はまた話が別です。
精算課税の贈与は孫に対する何年前の贈与であろうと金額の大小に関わらず全て相続財産に加算されます。
それは今までもこれからも同じだと思います。

上で説明したように、 相続開始前3年以内の贈与であっても、生前贈与加算の適用を受けないケース はもう1つあります。
それについては次回説明したいと思います。

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