日本で海外の会計ソフトは流行らない?

はじめに

先日、Xで「海外のAI企業が日本向け会計ソフトを出すこと」に期待する意見を見ました。

しかし私は、海外製の会計ソフトが日本で広く普及するのは、なかなか難しいのではないかと思っています。

なぜそう思うのか。

理由はシンプルです。昔、アメリカのインテュイットという会社が日本でQuickBooksの日本語版を出したのですが、結局うまくいかなかった、という出来事を知っているからです。

インテュイットが日本語版を出したのは、1998年のこと。私はちょうどその頃、会計ソフトの会社で働いていました。

大学生の頃から「就職するなら会計ソフトの会社にしよう」と決めていて、1997年にパッケージ型の会計ソフト会社に入社。

当時のことは、今でもうっすら覚えています。

ネットで当時のことを調べても、あまり情報は出てきません。もう30年近く前の話ですし、その頃はインターネット自体がまだあまり広まっていなかったので、まあ仕方ないかなと。

そこで今回は、自分の記憶をたどりながら、当時のことを書いてみようと思います。

QuickBooks日本語版の発売

当時、店頭販売されていたパッケージ型の会計ソフトといえば、弥生会計、PCA、勘定奉行、会計王などがありました。

そんな中、インテュイットは『大番頭』を作っていたミルキーウェイと、『弥生会計』を作っていた日本マイコンという会社を、続けて買収します。そのうえで、アメリカで大きなシェアを持っていたQuickBooksの日本語版を出してきたのです。

業界にとっては、まさに「黒船がやってきた」というくらい大きなニュースでした。

私が入社したばかりの会社も、ど真ん中の競合相手です。「日本の会計ソフトの勢力図が、これから大きく変わるかもしれない」そんな空気が、社内にも流れていたのを覚えています。

ところが、大きな期待を持って登場したQuickBooks日本語版は、いざ売り出してみると思ったほど広がりませんでした。

その後、インテュイットはQuickBooks中心の展開を見直し、2003年に弥生を切り離します。弥生はその後、ライブドアグループに入るなど、何度か親会社を変えながら、今に至っています。

なぜ撤退に至ったのか

当時、開発に関わっていた方のインタビュー記事を読むと、うまくいかなかった理由が見えてきます。

一言でいえば、日本ならではの商売のやり方に合わせきれなかった、ということです。

たとえば、月末でいったん区切ってまとめて請求する「月締め」、後でまとめてお金をもらう「掛け払い」、手形でのやり取り。日本には、海外ではあまり見かけない商習慣がたくさんあります。

海外では小切手でのやり取りが中心ですし、そもそも「締め日」という考え方自体、あまり一般的ではありません。

QuickBooksをいくら日本語に直しても、こうした日々の業務のやり方には、なかなかぴったりはまらなかったのでしょう。

QuickBooksは販売管理・会計・給与がオールインワンになった一般ユーザー向けの仕様でした。ところが海外は小切手文化が主流で、〆日という日本独特の概念がありません。なんとか取り繕った仕様にしてみたものの、入金管理や繰り越しができない部分が、日本ではあまり受け入れられなかったんです。弥生はそういった面ではやはりトラディショナルな仕様でしたから、最終的には弥生に注力することになりました。この頃はなかなかしんどかった記憶がありますけどね。

https://www.wantedly.com/companies/donuts2007/post_articles/345948

さらに、日本の税制度はとても複雑で、しかもよく変わります。消費税ひとつとっても、導入されてから何度もルールが変わってきましたし、今では軽減税率やインボイス制度まで加わっています。

これらの変更に毎回ついていくとなると、開発にもお客様サポートにも、かなりのお金と人手がかかります。

海外で売れている製品をそのまま日本に持ってくるだけでは難しく、日本向けに大きく作り変える必要がある。そこに、海外の会社から見た日本市場の難しさがあるのだと思います。

まとめ

インテュイットがもう一度、本気で日本の会計ソフト市場に入ってくる可能性は、個人的にはそれほど高くないと見ています。

過去にうまくいかなかった経験があるうえに、日本の税制度や商習慣は、当時よりもむしろ複雑になっています。

他の海外企業も、インテュイットがうまくいかなかった話を知っていれば、いちから日本市場に飛び込むのは、なかなか勇気がいることだと思います。

とはいえ、可能性がまったくないわけではありません。

海外の会社が、すでにある日本の会計ソフト会社を買収して、税制度への対応やお客様はそのまま引き継ぎ、自分たちが得意なAIの機能を上乗せして勝負してくる。そんな形なら、十分にあり得ると思います。むしろ、これから何か起きるとしたら、こちらのパターンの方が現実的かもしれません。

そう考えると、日本の会計ソフト会社も、AIの機能をしっかり強化していかないと、いずれ大きな波に飲み込まれてしまうかもしれません。

日本の会計ソフト市場は、これまでは税制度や商習慣への対応の難しさが、海外勢にとっての高い壁になってきました。ただ、そこにAIという新しい技術が加わってきたことで、これから先、業界の景色がガラッと変わってもおかしくない。そんなふうに感じています。

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