ご相談事例
先日、相続税の期限後申告書を提出した方から、小規模宅地等の特例(以下「小規模」)を適用できることが後からわかったので、更正の請求をして相続税を還付してもらえないかというご相談をいただきました。
なお、このケースでは期限後申告書を提出した時点で遺産分割はすでに成立していました。
また、期限後申告書を作成したのは私ではなく、他の税理士です。
検討した結果、今回のケースでは、更正の請求によって小規模を新たに適用することはできないと判断し、その旨をご説明しました。
小規模にはいくつかの種類がありますが、実務上よく出てくるのが、被相続人の自宅の敷地を、被相続人と同居していた相続人が取得するケースです。
この「特定居住用宅地等」に該当すれば、一定の面積まで宅地の評価額を80%減額することができます。限度面積は330㎡です。
今回のご相談でも、当初の申告で小規模を適用していれば、特定居住用宅地等について80%の評価減を受けることができ、結果として課税価格が基礎控除額以下となり、相続税はゼロになる計算でした。
しかし、期限後申告の際に小規模の適用を受けていなかったため、残念ながら、後から更正の請求で適用し直すことはできませんでした。
期限後申告でも小規模は適用できるのか
誤解されやすいのが「期限後申告だから小規模は使えない」という考えです。
これは正しくありません。
小規模は租税特別措置法第69条の4に規定されています。
同条第7項では、次のように定められています。
第一項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第二十七条又は第二十九条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む。次項において「相続税の申告書」という。)に第一項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
この条文から、期限内申告書だけでなく、期限後申告書や修正申告書でも小規模を適用できることが明確に読み取れます。
相続税の申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」ですが、その期限を過ぎてしまった場合でも、期限後申告書に適用を受ける旨を記載し、必要書類を添付すれば小規模は適用可能です。
この点は、税理士も意外と見落としがちなポイントです。
今回のご相談でも、当初申告を担当した税理士が「期限後だから適用できない」と判断してしまったようです。
また、修正申告でも適用できる点は盲点になりやすいところです。
修正申告は、申告した税額が過少であった場合に提出する申告です。
財産の計上漏れなどにより申告をやり直す際、小規模を適用した結果として税額が増加するケースであれば、その適用は認められます。
更正の請求で後から小規模を適用できるのか
ここが今回の相談のポイントです。
更正の請求は、申告した税額が本来納めるべき税額よりも多かった場合などに、税額を減額してもらうための手続きです。
今回のケースでは、「当初の期限後申告で小規模を適用していなかったので、更正の請求で小規模を適用して相続税を減らせないか」という相談でした。
しかし、原則として、このような方法で後から小規模を適用することはできません。
その理由は、先ほどの租税特別措置法第69条の4第7項の規定にあります。
前述の通り、この条文でいう「相続税の申告書」には、期限内申告書だけでなく、期限後申告書や修正申告書も含まれます。
一方、更正の請求書はこの中に含まれていません。
そのため、当初の申告書で小規模を適用していなかった場合に、単に「やっぱり小規模を使いたい」という理由で、更正の請求によって初めて小規模を適用することは原則として認められません。
今回のケースもこれに該当します。
期限後申告そのものは小規模の適用を妨げるものではありませんでした。
しかし、その期限後申告書を提出する際に小規模を適用していなかったため、後から更正の請求によって適用することはできない、という結論になります。
未分割だった場合は更正の請求ができる
ただし、これには重要な例外があります。
相続財産が申告期限までに分割されていなかったため、当初の申告では小規模を適用できなかったケースです。
小規模は、相続人が取得した宅地について適用する特例です。
そのため、遺産が未分割の状態では、誰がその宅地を取得するのかが決まっておらず、小規模の要件を満たすかどうかを判断できません。
このような場合には、いったん小規模を適用せずに申告することになります。
その際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、その後に遺産分割が成立した場合に、一定の要件のもとで小規模を適用することができます。
このことは租税特別措置法第69条の4第4項で定められています。
例えば、遺産分割が成立し、被相続人と同居していた相続人が自宅の敷地を取得したことで、特定居住用宅地等の要件を満たすことになったとします。
この場合には、一定の要件を満たせば、分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることで、小規模の適用を受けることができます。
この場合は、当初の申告で小規模を「適用しなかった」のではなく、そもそも遺産が未分割だったため、当初の申告時点では小規模を「適用できなかった」という点が重要です。
したがって、
- 当初申告の時点で遺産が未分割だった
- その後、遺産分割が成立した
- 分割によって小規模の適用要件を満たした
というケースでは、更正の請求によって小規模を適用できます。
一方、今回のご相談のケースのように、すでに遺産分割が済んでいて、当初の期限後申告で小規模を適用できる状態だったにもかかわらず、単に適用しなかったというケースでは、後から更正の請求によって小規模を適用することはできません。
最後に
今回のケースを整理すると、次のようになります。
期限後申告だから小規模が使えないわけではありません。
期限後申告書や修正申告書でも、一定の要件を満たしていれば小規模を適用することができます。
ただし、すでに提出した申告書で小規模を適用していなかった場合に、後から更正の請求をして新たに小規模を適用することはできません。
一方、当初申告時には遺産が未分割だったため小規模を適用できず、その後の遺産分割によって適用要件を満たした場合には、更正の請求によって小規模を適用できる場合があります。
この違いは、相続税の申告をする際には押さえておきたいところです。
相続税の申告では、財産の評価だけでなく、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、適用するかどうかによって税額が大きく変わる制度があります。
相続税の申告や相続財産の評価についてご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。



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